サッカーにおける「マリーシア」という言葉をご存知でしょうか?
このマリーシアはブラジルサッカーの強さの秘訣であると同時に、「日本サッカーに欠如している」と言われるものでもあります。
そこでこの記事では、ブラジル在住時に毎週のようにブラジルサッカーを観戦していた僕が、「マリーシア」とは一体何なのか、ブラジル人選手の証言などを交えながら分かりやすく解説していきます!
「マリーシアってずるさでしょ?」という方も、マリーシアのもっと深い意味を知ることができますので、ぜひ参考にしてください!
- マリーシアのポルトガル語の意味は?
- ブラジルにおけるマリーシアはポジティブなもの
- なぜ日本でマリーシアが嫌われるか?
- 日本サッカーにマリーシアが足りない例を紹介
サッカーの「マリーシア」とは?意味は2つある
「マリーシア」はブラジル生まれの言葉。ポルトガル語では「Malícia」と表記され、英語では「Malice」という単語に相当します。
サッカーの「マリーシア」とは?ポルトガル語の意味
まず初めに、ポルトガル語でマリーシアとはどういう意味なのか、大きく2つの意味をご紹介しましょう。
悪意、邪心、意地悪 機敏、鋭敏、ずるさ、抜け目のなさ 引用:現代ポルトガル語辞典(白水社)
2つ目の「ずるさ」には、「ずる賢さ」というポジティブな意味もあると考えられます。すると、「悪意、邪心、意地悪」がネガティブなものであるのに対し、「機敏、鋭敏、ずるさ、抜け目のなさ」はどちらかというとポジティブに捉えることができるでしょう。
マリーシアは必ずしもネガティブではなく、ポジティブ・ネガティブ両方の意味があることが分かります。
「マリーシア」の意味とは?サッカーにおける解釈
この「マリーシア」の意味をサッカーに応用させると、以下のように解釈することができます。
- ネガティブ:相手を苛立たせる意図的&幼稚なプレー
- ポジティブ:ずる賢さ、駆け引き上手、機転、柔軟性、知性、経験豊富
ブラジルサッカーにおける「マリーシア」とは、主にポジティブな意味で使われる言葉です。日本サッカーではネガティブな意味合いで使われることが多いので、ここが一番大きな違いと言えるでしょう。
「マリーシアが足りない」という言葉は、日本語で言うと「あの選手はまだ若い」といったニュアンス。経験不足や未熟さを表しています。
ブラジルサッカーにおける「マリーシア」はポジティブ
ブラジルにおいて、「マリーシア」はポジティブな意味合いで用いられる言葉です。そこでここからは、実際のブラジル人選手の証言などを交えながら、マリーシアの本当の意味に迫っていきましょう。
ブラジル人サッカー選手が語る「マリーシア」の本当の意味
日本サッカーをよく知るブラジル人選手は、みな口をそろえて「日本サッカーにはマリーシアが足りない」と言います。ではブラジル人にとってマリーシアとは何なのか、ヒントになる証言をご紹介しましょう。
【ドゥンガ】引用:『マリーシア 駆け引きが日本のサッカーを強くする』
- 日本代表はテクニックもスピードも申し分ない。足りないのはずる賢さだ
- 日本の選手には相手をだますような技術や戦術、心の余裕がない
【カカ】
日本の選手は高いクオリティを持っている。でも、もっといい意味での「悪さ」を持たないといけない
引用:『マリーシア 駆け引きが日本のサッカーを強くする』
【カカ】マリーシアとは…
引用:『マリーシア 駆け引きが日本のサッカーを強くする』
- 言葉でぱっと説明できるものではない
- プレーをしながら学ぶもの
- 相手をイライラさせるのはやり過ぎ
【マルキーニョス(元鹿島アントラーズ)】
日本人の真面目さが、マリーシアを発揮するにあたって少し邪魔をしている。
引用:『マリーシア 駆け引きが日本のサッカーを強くする』
ネガティブなマリーシアはマランドラージェンと紙一重
では具体的にどのようなプレーがマリーシアにあたるのか、まずはネガティブなマリーシアから具体例をご紹介しましょう。
- シミュレーション(ファールを受けていないのにファールを演じる)
- 倒れこみによる時間稼ぎ
- 相手のフリーキックでボールの前に立つ
- 交代の選手がゆっくりとピッチを歩く
- 相手を苛立たせる暴言
ブラジルにおける「マリーシア」では、「ルールに反する」という意味合いは決して強くありません。そのため、あまりにも意図的な汚いプレーは「マランドラージェン(Malandragem)」という別の言葉で表現され、マリーシアとは区別されます。
「マリーシア」と「マランドラージェン」の境目は非常に曖昧!ブラジルでもマランドラージェンはすごく嫌われるよ。
ポジティブなマリーシアはインテリジェンスのあるプレー
一方で、ポジティブなマリーシアの例を見て行きましょう。一見「ずるい」と思えるものもありますが、その裏にはいつもインテリジェンスがあります。
- ファールを受けたら倒れこんで、試合を落ち着かせる
- ボールをすぐに相手に渡さず、相手のリスタートを遅らせる
- 意外性のあるプレーで相手の意表を突く
- ボール支配率を上げ、パス回しで相手を疲弊させる
- 走るべきシーン(ON)と休むべきシーン(OFF)をはっきりさせる
- 試合状況に応じてポジショニングを大きく変える(DFの攻撃など)
マリーシアとは、上手に駆引きを行うことで試合を優位に運ぶためのプレーです。つまり、マリーシアにより相手が平常心を失えば、そのマリーシアは成功と言えるかもしれません。
マリーシアが日本サッカーで嫌われのは「ずるい」から
続いて、日本における「マリーシア」について考えてみましょう。日本サッカーでは、マリーシアはネガティブなものとして嫌われるケースがほとんどです。
日本サッカーではマリーシアの「ずるさ」が強調される
日本人が連想するマリーシアとは、主に「遅延行為」と「シミュレーション」の2つです。
- 遅延行為:勝っているチームがゆっくりプレー。わざと倒れて起き上がらない
- シミュレーション:ファールを受けていないのにファールを演じる
当然これらはマリーシアのネガティブな要素のみで、ブラジルでも「マランドラージェン」と批判されることがほとんど。日本では、マリーシアのネガティブな側面だけが定着してしまい、ポジティブな意味でマリーシアという言葉が使われることはほぼありません。
日本がよく対戦する相手で言えば、中東のチームがやるのは「マリーシア」ではなく「マランドラージェン」だね。
マリーシアを嫌う日本独自の価値観
日本ではなぜマリーシアが根付かないのか、その背景には日本におけるスポーツ文化はもちろん、日本人の国民性が大きく関係していると言えます。
- スポーツは正々堂々とやるべきだ
- 敗者をねぎらう
- 協調性を重んじる(意外性のあるプレーをしにくい)
- 戦略などロジカルな思考を好む(柔軟性の欠如)
- 決められたトレーニングばかりをこなす(咄嗟のシーンに対応できない)
- 監督の指示が絶対(各選手が適切な状況判断ができない)
日本のサッカーはブラジル人から「慌ただしい」、「速さばかり考えてメリハリがない」、「慌てると頭が真っ白になる」、「自分たちが勝っていてももう1点を取りにいってしまう」などと表現されます。試合の状況に応じて、ゆっくり試合を落ち着かせるという意味で、日本にもマリーシアは必要不可欠と言えるでしょう。
Jリーグ初期のブラジル人選手は、よく「すぐに倒れる」というレッテルを張られました。彼らにとってのマリーシアも、日本では批判になるという良い例ですね。
日本サッカーにおけるマリーシアの欠如【実例紹介】
では日本サッカーにマリーシアは本当に定着していないのか、その参考となるデータや試合をご紹介しましょう。
日本サッカーにおけるマリーシアの欠如 1:Jリーグの時間帯別得点
2020年に行われたJリーグ(J1)の時間帯別得点分布は下記の通りです。
時間帯 | 0-15分 | 16-30分 | 31分-前半終了 | 46-60分 | 61-75分 | 76分-試合終了 |
得点 | 101 | 113 | 143 | 158 | 132 | 219 |
パーセント | 11.7% | 13.0% | 16.5% | 18.2% | 15.2% | 25.3% |
注目すべきは前半後半のラスト15分。特に後半のラスト15分では、実に25.3%のゴールが生まれていることが分かります。これは日本では「最後まで諦めずによく頑張った」と評価されるのが一般的です。
しかし、ブラジルでは試合終了直前に点を決められるのは「愚かなこと」。特に勝っているチームが試合終了前に失点するのは、試合を落ち着かすためのマリーシアが欠如している証拠で、バッシングの対象にもなります。
日本とブラジルでは捉え方が全く違うんだね!
日本サッカーにおけるマリーシアの欠如 2:2018年W杯ポーランド戦
記憶に新しいのが、2018年のワールドカップグループリーグのポーランド戦です。この試合、他チームの勝敗によりグループステージ突破をほぼ手中に収めた日本代表は、最後の10分間でディフェンスラインでのパス回しを徹底。結果的にグループステージ突破を果たしましたが、日本のみならず世界で物議を醸すこととなりました。
日本の行ったこの戦術は、まさにマリーシアそのものです。ただし、問題は「あまりにもあからさまで上手でなかった」ということかもしれません。「他のチームだったらこんな問題にはならなかった」という声が多数あがったのは、「日本のマリーシアが上手くなかった」ことの裏返しと言えるでしょう。
ブラジルサッカーのマリーシアは「賢さ」が大事
日本においてネガティブな側面だけが強調されるマリーシアですが、ブラジルにおけるマリーシアとは本来ポジティブなものだと言えます。マリーシアを上手に使いこなせば、試合を自分たちのペースでコントロールできるので、日本サッカーがさらに先へ進むためには必要不可欠と言えるでしょう。
マリーシアはブラジル人選手には必ず備わっている素質とも言えますので、Jリーグの試合でもブラジル人選手の「マリーシア」に注目してみてくださいね!
ブラジルサッカーについて詳しく知りたい方は『ブラジルのサッカーはなぜ強い?住んで分かった3つの理由』や『ホペイロとは?サッカーに欠かせない仕事内容とポルトガル語の意味』も併せてご参照ください。
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